高橋 昌一郎 著 「理性の限界」読後感想

一見数学や物理の啓蒙書の様にも見える哲学の本。

構成は、アロウの不完全性定理ゲーム理論などが紹介される社会学的な意味合いの強い話題が紹介される「選択の限界」、量子力学における観測の解釈問題や自然科学の流儀にあれこれいちゃもんをつける「科学の限界」、ゲーデル不完全性定理など論理学的な話題が紹介される「知識の限界」の 3 部からなる。

一般公開のパネルディスカッションの様な会話形式で書かれており、(仮想の)専門家/思想家が話題を紹介し、素人から質問が出て、それに専門家/思想家が答えるという流れが基本である。また、登場する仮想の専門家や思想家はことごとくアクが強く、自分の好きな話題へ脱線しようとするが、司会者が巧みに(というか無慈悲に)軌道修正させていくくだりも多く、皮肉たっぷりでもあり痛快でもある。

非常に平易でスラスラ読めるが、ゲーデル不完全性定理を除き解説と言っていいレベルの記述は無く、結果とそれらに対する哲学的コメントの紹介で終わってしまっている。

素人向けの入門書や啓蒙書を読むことを料理を食べる事で喩えるならば、この本読むことは料理の名前とその写真、数行の売り言葉だけからなる通販のカタログを眺める事に喩えられると思う。

この本で紹介されている話題に興味があるのであれば他の啓蒙書なり入門書を読むことを薦める。この本は、あくまでこれらの話題を肴に哲学を語る本である。ただ、著者が意図したかどうかは知り様もないが、読者にこれらの話題を知った気にさせてしまう危険な本であると思う。

少なくとも物理や数学の視点からこれらの話題に興味があって理解したい・知りたいと思っている人にはお勧めできない。哲学的な議論に興味がある人にはいいのかもしれない。

個人的にはジェイムズ D.スタイン著の「不可能、不確定、不完全―『できない』を証明する数学の力」が大変楽しかったのでこーいうタイトルの本も悪くないもんだと思ったのですが、趣味に合いませんでした。